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編集スタジオ「BLAZE」の編集卓
■NHK-MT独自設計の編集室 「BLAZE」で仕上げ 編集作業はNHK-MTが設計した3D高精細編集スタジオ「BLAZE」で行われている。この編集スタジオの特徴は、150インチの大型スクリーンで視聴しながら3D映像制作ができることだ。村山至副部長は、「撮影現場は待ったなしでしたので、条件の厳しいシーンもありましたが、現場のリアル感や空気感を伝え、見ている人を没入させる臨場感のある仕上がりを目指しています」と話す。 そこでハイビジョン3Dのドキュメンタリー制作について、いくつかのポイントを振り返ってもらった。 3D撮影クルーは、ディレクター1名、カメラマン1名と、ステレオグラファーと呼ぶ3D撮影の専門担当が加わる3名という少人数で動いている。通常の3D撮影は、左右両眼用の映像を記録するため2台のカメラを操作して撮影する。そのためにリグと呼ぶ専用マウントを使用するので、撮影装置は大がかりになっていた。被災地の生々しい現状を、俊敏に撮影するためには機動性が欠かせない。そこでパナソニックが世界で初めて開発したレンズ一体型二眼式カメラ「AG-3DA1」を活用したのである。一見すると1台の小型ハイビジョンカメラのようだ。
■カメラマンとステレオグラファー 空間を奪うようにして撮影が進む
3D撮影の専門ノウハウを身に付けたステレオグラファーの斉藤晶チーフ・エンジニアは「レンズ一体型二眼式3Dカメラの登場で機動性が大きく進みました」と話す。編集を担当した3D高精細センターの田畑英之チーフも「限られた撮影期間で、これだけ多くの映像記録ができたのは、カメラの機動性が高いから」と認めるほどだ。 3D撮影はカメラマンとステレオグラファーのコンビネーションが重要だ。その様子を村山ディレクターは、「立体視は左右の眼の視差を2つの映像データで再現するわけですから、その視差による輻輳角をコントロールするのがポイントです。そこでカメラマンが映像として撮りたいシーンと、ステレオグラファーの3D映像の仕上がり判断とのせめぎ合いです。空間の奪い合いということでしょうか」というように、両者の間で「もういいか」とカメラを回すタイミングと、「少し引いて」などの指示が交差した。「一体型といえどもカメラマンだけではなく、ステレオグラファーが3D設計を管理することで良質の3Dを生み出すことができる」と村山ディレクターは指摘する。
■自然な視線誘導で 違和感のない3D視聴
編集スタジオ「BLAZE」で、田畑チーフが3D編集20年に近い経験とノウハウを注ぎ込む。「自然な視線誘導で立体の世界、特に見始めから見終わるまで違和感のない3Dを考えています。ポイントは、映像効果を増すためのフェードインやアウト、オーバーラップなどの手法や、テロップ挿入のシーンも2D映像とは違うので、そのあたりでしょうか」。 村山ディレクターは「3Dならではの飛び出し感であり、奥行き感にあふれる深い立体感をどう編集でまとめていくか」だと話す。そして、雄勝町のバス撤去のシーンは、降っている雪の映像が立体感を増してくれるという。手前にあるモノから奥への広がりを感じさせるとき、その間の細かなレイヤの映像として雪の降る動きが役立つからだ。
屋上乗り上げバスの撤去作業を3D取材
■貴重な定点観測3D記録 時間とともに高まる映像価値
なぜ、NHK-MTは被災地を3D映像で記録するのか。西山博一代表取締役社長は「われわれが被災に対し貢献できることは何かと考えたとき、四半世紀にわたり蓄積してきた3D技術を活用し、記録していくことでした。2Dで表現できない奥行きから新たなことを発見することに繋がり、今後の防災や減災の研究に寄与したいという思いです」と話す。 岩手県内の宮古市田老地区、陸前高田市、宮城県内の気仙沼市、南三陸町、石巻市立大川小学校、東松島市野蒜、仙台市若林区などの被災現場を定点観測として記録していく。時間を経るとともに、定点観測の映像記録はますます重要になっていくことは間違いない。また、3D映像の情報量の多さに注目したい。小型カメラではあるが、片眼の映像情報として1920×1080のフルハイビジョン画質で記録され、両眼分として2倍のデータ量が蓄積されている。 撮影を担当した東北支社の伊藤孝雄チーフ・エンジニアは3D映像について、「空気に厚みがあるという表現力を3D映像には感じる」と話す。また、村山ディレクターは「見終わって、現場に入ったときよりも強い臨場感を感じたと話した人がいました。3D映像の持つ秘めたる可能性に驚いています」と言う。 短編ドキュメンタリー『東日本大震災 津波の傷跡』として16分にまとめられ、昨年の夏休みから神戸の阪神・淡路大震災記念「人と未来防災センター」3Dシアターで今年3月まで上映された。その続編が、1年を経た被災地の様子を交えるこの新作で、完成は4月下旬である。
震災1カ月後の気仙沼(写真提供:NHKメディアテクノロジー)