ロニー・スコットとピート・キングの二人によって1959年10月に設立された老舗ジャズ・クラブ、「ロニー・スコッツ」。半世紀を超える歴史を誇るこのクラブでは、エラ・フィッツジェラルドからマイルス・デイヴィスまで、そうそうたるアーティストが伝説的名演を繰り広げ、ロンドンのジャズファンを熱狂させてきた。サリー・グリーンとマイケル・ワットが経営を引き継ぎ、改装オープンを果たした2006年以降もその評判は止まることを知らず、毎晩のようにチケットが完売する状況が続いている。収容人数220人という小規模クラブ故の悩みを解消すべく、今回、クラブは最新テクノロジーの導入を決めた。「金曜の夜遅くにソーホーまで来られない、遠くにお住まいでいらっしゃる、チケットが取れないなどの理由で、当店にお越しいただくことが出来ないお客様にも、ご自宅に居ながらにして気軽に『ロニー・スコッツ』のライブを体験していただけるようにし、お客様の幅を拡げたいと考えています。」(同クラブの責任者サイモン・クック氏)。
2006年の再オープン以来、クック氏はより幅広い人々にロニー・スコッツの音楽を届けるための方法を検討してきた。一方で、クラブの雰囲気を台無しにしかねない野暮な「テクノロジー」の導入には慎重な姿勢を保ってきた。たとえ何らかの方法で導入するにしても、その目的はあくまでもアーティストの成長を促すことであり、ライブDVDを販売して利益を上げることではなかった。
その後、テクノロジーの利便性や有用性が向上したことを受け、クック氏は態度を和らげ、導入の可能性を検討してみようと考えた。ロニー・スコッツと似たような環境にあるロンドンの他のクラブを訪ね歩き、クラブの外にいる「オーディエンス」と「パフォーマー」の距離を縮めることのできるテクノロジーを探し求めた。そこでクック氏が出会ったのがHDカメラだった。屋内で行われるライブを放送用に撮影するためには、堅牢で信頼性が高いだけでなく、照明が暗くても高画質撮影が可能で、あまり目立たない機材が必要となる。AV機材サービス会社に相談したところ、こうした条件を満たすだけでなく、コスト面でも最適であるとして薦められたのがパナソニックのカメラ。クック氏自身もリサーチを行い、低照度下でも鮮明な高画質HD映像の撮影が可能なハンドヘルド・カメラと回転台一体型HDカメラなら使える、という結論に至った。
他に必要とされたのは小回りの利くコンパクトさとマルチアングル/ポジションでの撮影が可能なシステム。後者は見過ごされがちな低角度での撮影を可能にし、ネットで見ている人にあたかもその場にいるような感覚を与える。また、会場に来ているお客様がカメラの存在に気付かないよう、カメラが目立たないようにする方法を検討した結果、クック氏は、本体のデザインがコンパクトで色も落ち着いたパナソニックの回転台一体型HDカメラが相応しいという結論に達した。回転台を固定して使えば、最大100種類のプリセットズーム、パンポジション、チルトをあらかじめプログラムすることが可能で、例えばカルテットのメンバー一人一人の映像や、マイク越しの歌手のズームアップなど、ライブ中にAV担当の技術者が簡単に画面を切り替えることができる。
クック氏は早速パナソニックの販売店に連絡し、デモンストレーションが行われた。低照度下で高画質撮影や回転台のなめらかで自然な動きに感銘を受けたクック氏は、回転台一体型HDカメラAW-HE120三台とハンドヘルド・カメラレコーダーAG-HPX250を購入した(クック氏によれば、AG-HPX250は最近、BBCの高画質撮影用カメラとして採用されたのだと言う)。クック氏のプランはAW-HE120三台を天井から吊り下げ、AG-HPX250は三脚に設置し、ローアングルからも自在にライブの模様を捉えようというもの。撮影した素材はアーティストの次回出演の告知映像やライブストリーミングに使用される予定。ショートフィルム映画会社に素材を提供して、クラブでの熱演の模様を映画館で公開することも検討されている。また、スタジオの外でも編集作業が可能で、演奏が行われている最中に現場のビデオエンジニアがその場で作業を行うことができるため、時間とコストを大幅に削減することもできる。出来上がった高画質のコンテンツは翌朝に、前夜のパフォーマンスの概要としてロニー・スコッツのホームページにアップされる。これにより、集客効果だけでなく、クラブのステータスの向上も期待できる。
現在、機材の設置も終了し、これまではごく少数のお客様しか楽しむことができなかった素晴らしいライブが世界中の音楽ファンにも届けられている。

